01


二刀より放たれし蒼い稲妻が空を切り裂き、地を走る。凄まじい雷音を伴ったそれは竜の咆哮に似て―…。

「覚悟のない奴は退け!」

バチバチといまだ放電を続ける刀を手に、遊士は立ち塞がる敵を睨み据え、鋭い眼光で射抜く。

目の前の敵が恐怖に支配され、無謀ともいえる戦いに身を投じていることは怯えの混じったその目を見ればすぐに分かった。

「っ、退いたところでどのみち俺達は助からねぇんだ!だったら…」

「うぉーーー!」

震える手で武器を握り、男達は斬りかかってくる。

「shit!胸くそ悪ぃ戦しやがって」

悪態を吐きながら、その手で命を散らす。せめて苦しまず逝けるよう、そうしてやることしか遊士には出来なかった。

「遊士様」

とん、と軽く背にぶつかった存在が気遣うようにその名を呼ぶ。

「分かってる。この陣を張ったのはきっと…」

まだ陽も昇らぬ早朝に奥州を出た伊達軍は、美濃までは順調に行軍を続けていた。

しかし、その行く手を遮るように突如現れた一軍。

眼前の敵を斬り伏せ、見えた旗印に政宗は厳しい表情を浮かべた。

「小十郎。何かおかしいと思わねぇか?」

「えぇ…それに明智の姿が何処にも見当たらないのも気になります」

刀に付着した血を払い、小十郎は頷いた。







その様子を高台から見下ろす影が二つ。

「ふふっ、こうも予定通り行くと少し怖くなるね」

「何を言っておる。まだ始まったばかりではないか」

「うん、そうだね。僕は必ず君を天下という座に座らせてあげるよ、秀吉」

スッと冷たく細めた瞳を、交戦する伊達軍と明智軍から離し、その口元に微笑を浮かべた。

「確認はすんだのだろう?ならばもう用は無い。戻るぞ半兵衛」

先に身を翻した秀吉に続き、半兵衛も足を踏み出す。

「頼んだよ光秀君…」

君の働き次第で僕はまた策を練り直さなきゃならなくなる。

小さく落とされた呟きは風に流され、消えた。






「光秀様!先陣が伊達軍と交戦開始しました!我々はどう…」

報告に来た兵士は次の瞬間言葉を途切れさせ、ヒッと息を呑む。

「知れたことを。分かっているでしょう?戦って来なさい。貴方がたはここで伊達の足止めさえすれば良いのです」

ギラリと鈍い光を発す大鎌を喉元に宛がわれた兵は青ざめ、震えた。

「み、光秀様はどちらへ?」

上擦る兵の言葉に光秀は愉快そうにクツクツと笑う。

「秘密です。横取りされてはたまりませんからね」

アレは私が狙っていた獲物。

ひっそりと内緒話をするように囁いた光秀は鎌を退く。

そして、陣に戸惑う兵士を残して光秀は姿を消した。



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